議題解説
海洋法の歴史は古く、ローマ古代法まで遡ります。そこでは「海はすべての人々に共有される」という原則(Res Communes)のもと海の利用について考えられ、この考えは近代に至るまで枠組み作りの基本とされました。
そして近世になり「国家主権」の概念が形成されると、国際法の父とも名高いグロティウスは1609年に『自由海論(Mare Liberum)』にて航行と貿易の自由を主張します。また、これに対して35年にはセルデン『閉鎖海論(Mare Clausum)』にて国家による領海支配が主張され、この頃から「領海」と「公海」が区別され始め海洋法秩序が形成されるようになりました。
しかし、これらは度々法典化しようと試みられましたが具体的な法典化されることはなく時は20世紀に入ります。特に1930年に国際連盟下で行われたハーグ法典化会議では海洋法は主要議題の一つとされ「領海の幅(3カイリの基準を統一する提案)」、「領海における沿岸国と他国の権利」、「公海での自由航行の確立」が話し合われましたが合意はなされず、第二次大戦後に引き継がれることになります。
戦後、45年にアメリカが自国沿岸の大陸棚にある資源の利用権を主張した「トルーマン宣言」は、他国にも影響を与え海洋法の法典化が進められることとなり、また49年にはILC(国連国際法委員会)による草案化が進められることになりました。この草案を元に行われたのが58年の第一次国連海洋法会議です。この会議では本会議の争点である領海幅員についての成果はあげられなかったものの、ジュネーブ4条約(領海及び接続水域に関する条約、大陸棚に関する条約、公海に関する条約、漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約)が採択されました。
肝心の領海幅員に関しては決定がなされませんでしたが、第一次会議ももう少しの時間をかせば成功に終わったであろうと考えた国々は第二次会議の開催を要求しますが、同時に時期尚早だと考える国も少なくありませんでした。そのような対立がありながらも59年の国連総会にて「60年の3月もしくは4月の最も早い都合の良い日に会議を召集するよう事務総長に要請する」といった内容の決議(A/RES/1307(XIII))が採択され会議が召集されることとなりました。
そして開かれたのが本会議です。冷戦時代の東西対立に加え、漁業権利を主張し始める第三世界といった各陣営の主張が入り乱れることとなり最終的に熾烈な票取りが行われ、史実ではアメリカ・カナダが中心となって提案した条約案が賛成54、反対28、棄権5という僅か1票差で否決されることとなりました。そして会議の延長や再採決を求める声もありつつ会議は閉幕しました。
その後海洋法会議が開かれたのは10年以上も後のことであり、73年から82年の11会期にわたって開かれた第三次国連海洋法会議をもって条約は採択されました。 しかし、批准国の少なさなどから国連海洋法条約第11部実施協定の起草交渉が行われるなど、国連海洋法条約の発効は、条約採択から12年後の1994年のことでした。
今日では当たり前とも言える「領海12カイリ」の単語ですがその裏にある当時の情勢、各国の思惑、死活的国益といった全てをぶつけ己の理想の海洋法を作りあげようではありませんか。
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フロント紹介
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コンセプト -Bon Voyage-
この言葉はフランス語で「良い旅を」という意味で古くから船乗りを中心に使われ、今日では英語や日本語でも同様の意味で使われています。
北陸大会は年度の最後に行われる大会でありこの大会を終え、月をまたぐと新しい後輩を迎える人や先輩より後輩の方が多くなる人、そして現役最後になる人、さらには新たな世界に飛び込む人など様々な船出が皆さんを待ち構えているでしょう。私はそんな皆さんの新たな船出を安心して安全に送り出す会議にしたいと思います。
ではどうすれば皆さんの「航海」を「Bon Voyage」と言い送り出すことができるのでしょうか。これには様々な形があると考えます。そして皆さんの「航海」は人によって様々あって良いと私は考えます。また、同じ目的地でもどのようなルートなのか、そしてどのような目的を持っているのか、どのような「船」であろうと良いでしょう。しかし言うなれば皆さんは同じ「模擬国連」をフィールドとした同じ「航海者」であるという共通点を持ち合わせています。今も昔も船乗りは出身の国や目的地などは違えど港町では皆、互いを助け合い、時には盃を交わしたでしょう。私たちも同じで互いの持つバックグラウンドや模擬国連に対する関わり方は違えど同じもぎこっかーであるという共通認識の元関わることができるでしょう。
私は模擬国連は「無形の技術継承」的な側面が強いと考えます。初めはリサーチの「り」の字もわからなくとも会議経験を積むごとになんとなくわかる人や先輩などから教えてもらってリサーチ並びに会議行動、そして会議設計や団体運営のノウハウを学んだりするでしょう。明文化されていることも多いですが、実際に体を動かす必要のあることの方がはるかに多いと思われます。特に会議行動などはそのような側面が強いでしょう。私はこの北陸大会が一年度の最後の大会であるからこそ、その継承がきちんと行えば幸いです。その意味で、フロントから参加者(デリ)の皆さんに対してだけでなく、参加者同士でも、そのような「無形の技術伝承」を行いたい、行っていただきたいという願いをこの「Bon Voyage」というコンセプトに込めました。それは先輩から後輩へだけでなく後輩から先輩へも同じです。全ての人がこの会議を通じて新たな人それぞれ持つ新たな「航海」に向けてこの言葉を投げかけていただければ幸いです。
そしてこのコンセプトを実現するには多くの方に参加していただく必要があります。議題に興味を持った方も、模擬国連との向き合い方に興味を持った方も、コンセプトに興味を持った方もそうではない方でも、全ての方に対して今後の皆さんの「航海」にとってかけがえのないものにする自信がありますし、そのためのサポートを惜しみません。ぜひ会議に参加してくださることを心よりお待ちしております。
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会議設計 ▼
議題正式名称:領海の幅及び漁業範囲に関する問題(第二次国連海洋法会議)Question of the Breadth of the Territorial Sea and Fishery Limits(Second United Nations Conference on the Law of the Sea : UNCLOS II)
設定議場 : 海洋法に関する第二次全権国際会議(スイス・ジュネーブ・Palais des Nations)
設定日時 : 1960年3月17日〜4月26日
募集人数 : 最小24名(21組)程度〜最大36名(32組)程度
事前交渉・事前会合なし
条約案について会議前に提出を求める可能性あり。
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論点解説 ▼
1.領海幅員
今でこそ領海12カイリという言葉を様々な場面で聞きますがこの合意は海の国際法について話始められてから約400年の時を経て国連海洋法条約において決められることとなった。
本会議では大きく分けて6カイリを主張する西側諸国と12カイリを主張する東側諸国そして第三世界などの対立のほか、200カイリを主張する国もいた。
根拠としてこれまでの慣習化した国際法のほか安全保障や自国の経済状況などが挙げられるだろう。自国の状況と望ましい帰結のためにどのように会議を進めるかが重要となるでしょう。
2.漁業水域
この論点では領海とはまた別の漁業水域の議論がなされた。これは現在でいう「排他的経済水域」に近いものであるだろう。しかしこれと何が異なるかというと本論点では「漁業」に限定しているものである。
この論点は領海と表裏一体の関係であると言える。多くの国々はその沿岸沖合から外国漁業を排除し、より大きな漁業利益を自国に確保するために領海の拡大を意図した。一方で進んだ水産業を持ち、むしろ他国沖合の漁業により強い関心を持つ国々は狭い領海を支持する。漁業水域は広い領海と狭い領海のそれぞれの利益のもとに主張されていた。主な主張は12カイリであったが、この中にも単純12カイリ、12カイリと漁業実績を加味したものなどがある。主な対立は漁業先進国と漁業後進国などが主であるだろう。また漁業水域内外での権利や紛争解決についてもこちらの論点で話し合われる。
この2つの論点は先に述べたように関係性が深いため論点間のバーターや交渉、最終的には票取り要素があるものと想定している。
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国割 ▼
Argentina
Brazil
Ceylon
Chile
Cuba
Finland
France
Ghana
Guatemala
Iceland
India
Indonesia
Iran
Italy
Japan
Liberia
Mexico
Netherlands
New Zealand
Nicaragua
Norway
Peru
Philippines
Portugal
Romania
Saudi Arabia
Spain
Union of Soviet Socialist Republics(ペア)
United Arab Republic
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(ペア)
United States of America(ペア)
Uruguay
※原則シングルデリとし、一部の国をペア必須とします。ペア参加を希望される場合は、アプライ前メンターにお越しください。
※今後変更や増減の可能性があります。
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会議の特徴 ▼
・議題のわかりやすさ
この会議はいわゆる数字ベースの主張が予想されます。このことからグルーピングなどの対立軸は明確です。しかし同じ主張にも各国の事情から烈度の違いやスタンスの相違は如実に存在します。その中でこの対立軸や相違を戦略に組み込むことが重要になるでしょう。
・国益設定および戦略
議題理解が容易であるがゆえ、国益設定や戦略策定に時間を割くことができ、具体的な会議行動についてより深く考える必要があるでしょう。国益という本質的なものを深く掘り下げることでより自分や他のデリの会議行動を思考し分析し、またより澄まされた議論並びに交渉を行っていただくことができます。
・1票差の史実
史実の結果が1票差ということはどのような帰結に至ってもおかしくないということです。皆さんの戦略や会議行動、そして1票によって帰結が様々考えられるため自分自身の行動に責任を持って会議行動することができるでしょう。
・オーソドックスな会議形式
本会議はインフォーマルを行いこれに基づきコーカスを行うというオーソドックスな会議形式をとります。このことから自分自身の会議行動を振り返った時にできたこと、できなかったことの分析から自らの模擬国連に一般化し、今後の会議に活かすことが可能でしょう。
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参加者へのメッセージ ▼
私は海洋法の会議に出たことがあるわけでもないです。そして大学での専門が海洋法なわけでもないです。しかしながら自分の目の前に広がる果てしない何の淀みもない海は様々な先人が航海し様々な出来事が起こりその結果としてこれまでの慣習化した国際法が存在し、これを法典化した人々がいる。そんなロマンの塊だろうと初めて海洋法と出会った時に感動しました。そして海洋法はこれまでたくさんのもぎこっかーを魅了しファンを作ってきた議題だと考えます。そんな議題の会議を作ることができとても光栄に思います。
模擬国連はもしかしたら海に似ているかもしれません。というのも模擬国連は多様性を受け入れる広くて深いものであると考えるからです。強くなりたい!という人がいる一方、別にそうでもないかもという人、また会議というより運営に興味関心のある人など多くの関わり方があるように思います。でもそんな色んな人たちを包含し巻き込むといったところが模擬国連の素敵なところだと考えます。
そんな皆様の模擬国連ライフに少しでも方向性や活路を見出す会議を作ります。悩める人も別に悩んでない人も強くなりたい人も別にそうでもない人も一度本気で会議と向き合ってみませんか。私はそんな皆様のサポートをさせていただきたく思います。
私は文章を書くのが上手くないのでここまで読んだ皆様は首をかしげるかもしれません。ですので一度アプライ前メンターにお越しください。そこで皆様とお話できればと思います。この大会の今会議の経験が皆様の良い機会となることを祈って。
Bon Voyage!
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